フランス最大の左翼フェス・ユマニテ祭2026
フランス最大級の左翼フェス
フランスのパリの南で、毎年盛大に祝われている「左翼フェス」なるものがあるのを、知っているだろうか。
その名もユマニテ祭。
かつてフランス共産党の機関紙だった新聞「L’Humanité」が毎年開催しているお祭りだ。
左翼フェス? なにそれ? とぎょっとした人もいるかもしれない。しかし驚くなかれ、これがフランスではめちゃくちゃ人気なのだ。週末にかけて3日間、パリ南部の旧空軍基地で開催されるこのお祭りに、毎年老若男女が押し寄せる。昨年2025年は、なんと60万人を動員するという歴史的な記録を打ち立てた。
ユマニテ祭とは何か
ユマニテ祭は単なる左翼フェスではない。その中身は、日本で例えるなら、フジロック×赤旗祭り×論壇フェスのようなものなのだ。
目玉はやっぱりアーティストであろう。毎年国内外から超有名なアーティスト(ラップとロックが多い。反体制音楽だ!)がコンサートに来る。それも、普通に音楽に疎い私ですら知っているレベルの一流アーティストである。
パリ五輪の開会式でパフォーマンスしたアヤ・ナカムラ(仏語圏で最も売れているアーティストと言っていいだろう)も2019年に出演しているし、今年は北アイルランドのラップグループKneecap(ニーキャップ)のステージが話題を呼んだ。これで3日間通しのチケットが55〜70ユーロ。出演アーティストの豪華さを考えれば安すぎるくらいだ。ボランティアスタッフの方達、ありがとう!

「ラップ界のグレタ」と呼ばれる2Lのコラボステージ。アンチファの旗がはためく。
そして、音楽だけではない。会場中央のメインステージでは朝から晩まで政治家や活動家が登壇して議論を交わし、それに対して観客がヤジを入れたりしている。
ユマニテ祭は基本的にフランス共産党系のお祭りである。フランス共産党の各県支部や海外の共産党が出すスタンドでは、各地の名産品やご当地グルメを楽しめる。

シャラント・マリティームの共産党支部のスタンドで私は毎年牡蠣を食べるのが楽しみ。
しかし、共産党以外にもフランスの左派政党・組合・市民団体・独立系メディアが集結しているお祭りだ。全部で350以上の政治団体・市民団体・労働組合のスタンドが出ており、各ブースでは一日中ディベートなどが行われている。夜はディスコに変わり、朝までパーティーが続く。

パリごみ収集のCGT労働組合のスタンド

3日間がっつり楽しみたい人は、キャンプをして泊まりこむ。泊まらなくても、パリから電車とバスと徒歩で1時間くらいで来られるので、通うこともできる。3日目にはみんなヘロヘロになっているのが恒例だ。
敵か味方か? バチバチのフランス左翼2026
祭りの紹介はここらへんで。
さて、今年、この左翼全勢力が結集するユマニテ祭に来て気になるのは、やはり来年に迫る大統領選である。
ちなみに、あまり馴染みのない人に簡単に説明すると、フランスの左翼勢力というのはいつも候補者が乱立するせいで負ける。フランスは2回投票制で、複数の候補者が乱立する第1回投票の上位2名が決選投票に進むのだが、2017年も2022年も左派候補はこの決選にすら進めなかった。極右ルペンを阻止するために、泣く泣くマクロンに投票してきたのが、この10年間だったのだ。
そんな分裂大好きなフランス左翼だが、最近珍しく一致団結したことがある。それが2024年の新人民戦線だ。突然の国会解散、直前のヨーロッパ議会選挙でまさかの極右が第1党になるというピンチの中で、ついに左派が統一綱領・統一候補で団結してくれたのだ。議会選挙は国政。たとえ安全保障やら外交方針が合わなくても、「超富裕層に課税・公共サービスを立て直そう!」みたいな方向性で協力しやすいのだろう。そんな新人民戦線が奇跡のような勝利をおさめた熱気も冷めやらぬ中、開催された2024年のユマニテ祭は雰囲気がよく、私も楽しかった覚えがある。
しかし今年はどうだ。
左翼は分裂している。
なぜ左翼は分裂するのか、と言うのはまた日を改めてきちんと書きたいが、そんな中でも、もちろん今回の大統領選、左派の大本命はメランションである。過去2回は第1回投票で20%を超える得票をしており、今回も決選進出を狙っている。年齢的にも、今回が最後のチャンスになるだろう。

青いユニフォームがメランションの大統領選公式ユニフォーム。メランション27と背中に書かれている

ユマニテ祭一日目、メインステージに登場したメランション。外の中継会場まですごい数の人が押し寄せていた。
ユマニテ祭の会場には、メランション・ユニフォームをまとった若者が数多くいた。メランション、いやジャン=リュック(特に若い支持者はしばしば親しみを込めてファーストネームで呼ぶ)は若い層に人気なのだ。
2日目、私が会場に着いた時、会場の中央で人が多すぎて身動きが取れなくなった。なぜだろうと思い、周りを見て気づいた。メランションのミーティング中だったのだ。彼の政党「不服従のフランス」のスタンドは特別大きいわけではないのに、そこにメランションの話を聞きたい支持者が殺到する。もはや人が多すぎて何も見えない。それでも、スピーカーから流れてくるメランションのスピーチを皆、真剣に聞いている。それにしても人が多い。皆、彼に望みを託しているのだ。

メランションのミーティング。手前から3つ目が彼のスタンド。写真では伝わりづらいがとんでもない数
しかし、会場にいる大統領選候補は彼だけではない。極左〜中道左派まで、各陣営のトップが大統領選のために名乗りをあげている状況なのだ。このユマニテ祭の直前には、フランス共産党書記長のファビアン・ルーセルがテレビの生放送で立候補を表明し、ユマニテ祭でもメインステージでミーティングを行った。すれ違うフランス版「民青」の若者たちも旗を掲げて、「ルーセルを大統領に!」と叫んでいる。
メランションの会場では「ルーセルは仲間じゃない」というコールが自然発生するわ、それに対してフランス共産党員がキレるわ(気持ちはわかるよ ! ここはフランス共産党系のお祭りで、運営にも多くの共産党員が関わっているのに、そんなホストのお膝元で、しかも党内の民主的な手続きに従って選ばれた党の顔を汚すような言動をするなんて、さすがにイラッとするだろう) お互いの集客人数を競うわ、もうバチバチである。その気持ちはわかる。
そして会場の中でも一番緊張感があるのは、社会党(中道左派)のスタンドの前である。社会党に、過去の数々の行いから「裏切られた」と感じている人も少なくない。ゆえに時に衝突もある。警戒しているのか、スタンドの前に警備員までいたのが印象的だった。3日目のメインステージの4党合同討論でも、社会党が発言するたびにブーイングが止まらない。

社会党系の議員を的にしてボールで倒すゲーム。普通極右が的になるものだが......
2024年の空気が恋しいなあ……。公式プログラムを見ても、政党の垣根を越えたステージはあまり見当たらない。「各陣営、各自頑張る」という感じである。このまま大統領選に突入するのかあ……。
そんな中でも、あまり目立たないところでは、政党の垣根を越えた小規模なやり取りも見られなくはなかった。そのうちの一つが、フランス共産党Villeneuve-le-Roiのスタンドで行われたエルザ・フォシヨンと、「不服従のフランス」の指導部トップの一人であるマニュエル・ボンパールの対談であった。

フランス共産党とて一枚岩ではない。このエルザ・フォシヨンはフランス共産党の議員でありながら、2018年以降のルーセル書記長路線(フランス共産党独自路線)には批判的で、共産党の独自性を維持しつつも左派・エコロジストとの結集を優先する「オルタナティブ・コミュニスト」というネットワークの結成に関わった人物である。そこに、党外との協力、とりわけ方向性の近い緑の党や共産党からの支持を今もっとも必要としている「不服従のフランス」のトップがやってくるのは、まったく不思議ではない。
対談の雰囲気はとても良かった。馴れ合うのではなく、お互いに痛いところをガンガンついていく。「オルタナティブ・コミュニスト」は「不服従のフランス」の覇権主義を牽制しながらも、一致点を探っていくような姿勢。それに対して「不服従」側も交渉の余地をアピールし、当選した暁には政権に共産党メンバーを参加させると約束している。会場では、ボンパールが発言するたびに拍手が起きていたので、共産党の中にもこういう人たちはいるのだな、というのがよくわかる。そしてボンパールの「有能」っぷり。この人はどの企業で働いたとしてもすぐに昇進しそうだな〜という感じだ。
そんなこんなで、楽しい瞬間もあったけど、時にヒヤヒヤもしたユマニテ祭だった。
このまま大統領選に突っ込んでいくのだろうか。ちなみに現時点の世論調査では、どんなシナリオを想定しても大統領になるのはマリーヌ・ルペンである。どうなる、フランス左翼。
すでに登録済みの方は こちら