フランスの高校生たちはなぜ高校を封鎖しているのか――パリからの現場報告

よりよく学ぶために、高校を封鎖するーーそんなフランスの高校生たちの運動は瞬く間に広がり、国中を揺るがしている。しかし多くの報道が伝えるのは「暴力」ばかり。燃える校舎や警察との衝突の映像の向こうで、高校生たちは何を求めているのか。全国で600の高校が閉鎖された10月1日の夕方、パリのレピュブリック広場の集会で出会った若者たちに話を聞いた。そこには、政治への抗議と学校の壁を越える連帯があった。
森野咲 2026.10.02
誰でも

フランス全土で、高校生による大規模な運動が広がっている。発端となったのは、パリ南東郊外・クレテイユのサン=テグジュペリ高校。この高校で、教員の人員不足などに抗議して始まった「高校封鎖」は、パリの郊外から全国へと瞬く間に広がり、10月1日には、全国640の高校が封鎖された。こうした高校の抗議行動は、なんとフランスのすべての県に及んでいた。

こうした運動の広がりに対し、SNSでは燃える校舎や警察との衝突といった場面ばかりが大きく取り上げられ、与党や右派の政治家は、運動への支持を表明した政治家たちを「混乱を煽っている」と非難している。報道によれば、この日だけで1949人が身柄を拘束され、警官284人が負傷したという。しかし、こうしたセンセーショナルな映像や政治家同士の応酬によって不可視化されているものがある。――高校生たちは、なぜ立ち上がったのか。

その問いを携えて、10月1日の夕方、私はパリのレピュブリック広場へ向かった。高校生/学生組合が呼びかけた集会で、いままさに運動の只中にいる高校生のグループと、パリ北郊外サン=ドニ高校で教育補助員として働くパリ第8大学の学生に話を聞くことができた。彼らは、一体どんな思いでこの場所に足を運んだのだろうか。

10月1日レピュブリック広場、急遽開催された集会にて

10月1日レピュブリック広場、急遽開催された集会にて

「いまやらなければ手遅れになる」

「なにか大きなものの始まりにいるような気がします」

――集会に参加していた高校生は、現在フランス全土に広がっている運動についてそう話した。話を聞いたのは、レピュブリック広場の集会に来ていた高校生グループだ。彼らはそれぞれ別の高校に通う生徒だと言う。

――なぜ、今日この集会に来たのですか ?

生徒A「すごくたくさんの高校が参加していて、運動がどんどん広がっているのを見たからです。それを見ると自分も参加しようという気持ちになるし、若者は具体的な動機によって行動を起こしています」

高校生たちの運動がこれほど広がっているのは、大学進学者を選抜するParcoursup制度、そして高校の予算や人員の不足、校舎の劣化といった問題への解決策が一向に得られないことに対する不満が溜まっているせいだと語る。

生徒A「私の高校は、そこまで深刻な状況ではありません。でも、机すら足りなかったり、先生が足りなかったりする高校もあるんです。しかもバカロレアを控えた、とても大事な時期です」

彼らは自分自身の学校が深刻な状況でなくても、運動に参加する理由があるという。

生徒A「若者はみんな、自分たちが大変な状況にいることに気づいています。だったら外に出て、状況を変えようとした方がいい」

生徒B「自分たちもここにいる、あなたたちは一人じゃない、とほかの人たちに示すことでもあります。若者みんなで助けるんです」

生徒C「いまやらなければ手遅れになると思います」

3人はそれぞれ別の高校に通っているが、この日は全員の高校で封鎖活動と抗議活動が行われたと言う。

――みなさんの高校では、どのように封鎖を決行しましたか。

生徒A「まず、SNSでグループを作って、連絡を取り合います。何時に集まるかを決めて、学校の前にできるだけいろいろなものを置いて、封鎖します」

しかし、ただ校門を塞いで終わりではないのだと言う。

生徒A「封鎖したあとは、特に学校側と話をするようにしています。自分たちの要求を理解してもらって、自分たちがやっていることを受け入れてもらえるようにするんです」

各高校で生徒たちがSNSを使って動く一方、より広い動員には高校生・学生組合も関わっているという。この日の集会は、高校生組合ユニオンと学生組合ユニオンが集会を主催し、来週の火曜日には再び全国的な動員が呼び掛けられている。

――生徒たちはみんな、こうした運動に積極的なのですか。

生徒A「人によると思います。でも、こうした要求は正当だし、自分たちの声を聞いてもらうために動かなければいけない、ということについては、多くの人が一致していると思います」

生徒B「自分には関係ないと思っている人もいます。それから、ただ騒ぐために参加している人もいるとは思いますが、それは少数だと思います」

彼らは、そうした少数の行動が、運動全体のように報じられていることに不満を漏らす。

生徒B「高校封鎖で起きる衝突や、火とか暴力ばかりが報じられているのを見ると、自分たちの声がちゃんと聞かれていないように感じます。そういう人たちのことも話す必要はあるけれど、その人たちがメディアの中で一番大きな場所を占めるべきではないと思います」

インタビューさせてくれた高校生。「めちゃくちゃ怒っている(faché) ファシスト(facho)はお断りと書かれた紙を掲げる

インタビューさせてくれた高校生。「めちゃくちゃ怒っている(faché) ファシスト(facho)はお断りと書かれた紙を掲げる

「要求を聞いてもらえるまで続ける」

――警察との衝突は怖くありませんか。

生徒C「怖いです。でも、正直なところ、私たちがいる場所はまだ比較的恵まれていると思います。場所によっては警察がもっと強硬に弾圧してきて、直接攻撃してくるようなところもあります。私たちはまだ未成年ですし、けがをしたとき、自分たちだけですぐに対応できるわけでもありません」

それでもなぜ彼らは参加するのかーー高校生たちが口にするのは「連帯」である。

生徒C「私たちは比較的恵まれている。話すことができるし、発言する権利も、自由もある。だから、その自由を、自分では声を上げることができない人たちとの連帯のために使いたいんです」

彼女は、学校によって教育を受ける条件そのものが違っていることにも疑問を投げかける。

「すべての学校が同じような条件でなければいけないと思います。一部の高校には必要なものがあって、ほかの高校にはない、というのではなくて、みんなが同じような条件で勉強できなければいけないと思います。」

――この運動は、来週以降も続くと思いますか。

生徒A「私の高校では続くと思います。明日と、来週の火曜日にも封鎖をする予定です」

生徒B「まだ一週間くらいは続くと思います。でも、何カ月も何カ月も続けるとは思いません。政府にも、そろそろ動いてもらわないといけない」

生徒C「私たちも、ある程度は勉強しないといけませんから。もちろん、教育のために必要なことを要求するのは大切です。でも、まったく勉強しなかったら、それも意味がない。自分たちがここにいること、よりよいものを求めていることを示す。でも、それをちゃんと活かすことも大切です」

一方で、要求に対して何の回答もなければ、運動は終わらないという。

生徒B「何も変わらなかったら、続くと思います。自分たちの問題に対する答えがなければ」

生徒C「要求を聞いてもらえるまで続けます。何の理由もなく、こんなことをやっているわけではありません」

そして彼らは、自分たちの運動の現在地を次のように語る。

生徒C「いま、何か大きなものの始まりにいるような気がします。もしこれで何も変わらなかったら、私たちは困る。フランスには、困っている若者が何百万人もいる。だから、できる限りの方法で声を聞いてもらわなければいけない。聞いてもらえるまで、やめないと思います」

生徒A「68年5月だとは思わないけれど、本当にいろいろなところで意識が変わってきていると思います。学生だけじゃなくて、最近は消防士も動いているし、10月17日には黄色いベストも戻ってくる。いろいろな運動が、また動き出しているんです。もちろん、かなり散発的で、途中で何度も止まると思います。でも、新しい大統領が決まるまでは、しばらくこういう運動が続くんじゃないかと思います」

生徒C「その後だって続くかもしれません」

「彼らの要求は私たちの要求でもある」

高校生たちが口にした「連帯」は、生徒たちの間にとどまらない。日々彼らと接する学校の職員や教員、そして大学の学生たちも、高校生たちの隣に立っている。

「これは怒りの爆発です。こんなことは、この国ではもう何年も起きていなかったと思います」

そう話すのは、パリ北郊外サン=ドニにある高校で教育補助員として働くアレクシさんだ。高校生運動は、彼の働くようなパリ郊外の高校で始まった運動をきっかけに始まった。サン=ドニでは、警察による強い取り締まりも行われているという。

――いま、フランスの高校で何が起きているのでしょうか。

「フランス中の高校でとても大きな運動が起きています。私が働く高校のある93県では大きな動きがあって、警察による弾圧も強い。何百人もの高校生が拘束されたり、警察から暴力を受けたりしています」

――どうやって、これほど広がったのでしょうか。SNSでしょうか。

「SNSもあると思います。生徒たち自身の組織もある。ただ、かなり自発的な運動だと思います。組合も動員を呼びかけていますが、それでも非常に自発的な動きです。本当に、怒りが爆発しているんです」

――高校生たちは、具体的には何を求めているのでしょうか。

「要求はいくつもあります。まず、特に郊外の高校で、もっと良い環境で勉強できるようにすることです。プレハブの校舎で勉強しなくてもいいようにする。古くて断熱も十分ではなく、夏は暑すぎて冬は寒すぎるような建物で勉強しなくてもいいようにする。屋根から水が漏れないようにする。看護師やソーシャルワーカーも必要です。つまり、きちんとした環境で勉強するための予算と人員が必要なんです」

しかし、運動の背景にあるのは学校設備の問題だけではないという。

「もっと深い怒りがあります。平等を求める気持ちです。郊外の高校生の多くは、自分たちが不利な扱いを受けている、ほかの人たちとは違う扱いを受けていると感じています。人種差別も受けています」

高校生たちが求めているのは、自分たちの尊厳をもって声を上げることでもある、とアレクシさんは話す。

――高校生だけでなく、学校で働く人たちも参加しているのですか。

「私が働く高校では、職員もストライキに入りました。警察から生徒たちを守るためでもあるし、私たちも同じ問題のために闘っているからです。ストライキ基金も作っています。生徒たちと一緒に運動を続けていくために、支援を呼びかけています」

連帯は高校の外にも広がっている。この日は、この高校のすぐ近くにあるパリ第8大学の学生たちも大学を封鎖し、高校生の運動に合流した。より良い教育環境を求めること。そして大学での選抜に反対し、よりよい将来への権利を求めること。それが高校生と大学生に共通する要求だという。

「私もほかのパリ8の学生たちと一緒に大学を封鎖しました。高校生たちとの連帯のためです。彼らの要求は私たちの要求でもあると思っています」

アレキシの働くサン=ドニの高校では、教員と職員が「壁」となって生徒を守った

アレキシの働くサン=ドニの高校では、教員と職員が「壁」となって生徒を守った

「暴力的なのは警察のほう」

――メディアでは、火をつける高校生など、過激な場面も多く報道されています。

「彼らは怒りを表現しているのです。そしてその怒りは、私には根本的に正当なものだと思えます」

アレクシさんは一部の高校生が暴力的になることは認めつつも、より大きな暴力は別のところにあると考えている。

「何より暴力的なのは警察です。それに、生徒たちにのしかかっている社会的な暴力があります。高校生たちは怒っていて、その怒りを表現している。でも、国家の側の暴力は、高校生たちを非常に激しく弾圧しています」

――あなたの高校でも、けがをした生徒がいるのですか。

「います。私が働いている高校では、頭蓋骨を骨折した高校生がいます」

警察の発射したゴム弾により眼を負傷した高校生

警察の発射したゴム弾により眼を負傷した高校生

近隣の高校でも、警察の発射物を顔面に受けた生徒が複数の歯を損傷したという。しかし警察によるデモへの介入自体は、現在始まったものではないとアレクシさんは強調する。

「警察による弾圧は昔からあります。1986年の大学改革法案に対して起きた大規模な高校生・学生運動では、当時22歳の学生だったマリク・ウスキンが警察によって殺されました。高校生や大学生のデモに対する警察暴力には長い歴史があります」

そのうえで、現在についてはこう見る。

「マクロン政権下では、明らかに取り締まりが強まりました。弾圧が非常に激しくなっています」

――この運動は、来週以降も続くと思いますか。

「続く可能性はとても高いと思います。運動は自然に続いていくわけではないですが、この国にはそれだけ大きな怒りがある。だから続く可能性は高いと思います」

高校生から大学生へ、学校で働く職員・教員へ、連帯は広がっている。

一方で政府はこうした高校生の運動を「暴力的な集団に乗っ取られた」と指摘し、安全確保を理由に、約400校の休校とオンライン授業への切り替えを打ち出している。 フランス主要労組CGTは、現在の状況は政府が教職員や高校生組合の警告に耳を貸してこなかった結果であると批判し、10月6日の全国動員に向け、教職員もストライキに入り、高校生たちの隣に立つよう呼びかけている。

パリ郊外から始まった高校生たちの怒りは、学校の壁を越え、フランス全土を揺らし始めている。

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